その3.ヘンデル作曲「メサイア」のお話

今回の「ないしょ話」は、ちょっとお勉強モード、です!^^; 暮れの「第九」ほどではないにしても、秋は「メサイア」のシーズン。え?メサイアって何?って思っているアナタも、「ハレルヤ・コーラス」は、きっとどこかで耳にしたことがあるはず。そこで、ここでは、「ハレルヤ・コーラス」ばかりではなく、この素晴らしい作品すべてに丸ごとスポットを当ててみました。別に歌詞なんか分からなくても、音楽が素晴らしいから充分楽しめる作品、って思っているアナタ!!!大まかな「あらすじ」が頭に入っていると、さらに、めくるめく世界が広がりますよ!

 

 

 オラトリオ「メサイア」HWV 56 (1741年作曲、42年初演)

 

@ 「メサイア」のオラトリオとしての特徴

・劇場のための作品である(教会で演奏される目的ではない)。

・「メサイア」を登場させず、「救世主」という理念を貫いている。

(上記に関連して)・各歌手が登場人物の役柄を演じていない。/・レシタティーヴォ・セッコが少ない。

・構成の上で合唱に大きな役割が与えられている。(B参照)

 

A ヘンデルの作品における「メサイア」の位置

「メサイア(1741年作曲)」前後のオペラとオラトリオの作品数の比較

1711年〜1741年 オペラ41曲 オラトリオ9曲

1741年〜1759年 オペラ 0曲 オラトリオ17曲(1741年以降上演された作品は42年の「イメネオ」以外全てオラトリオ)

※メサイアは、イギリスにおけるイタリアオペラの流行が廃れたことなどの外的な条件と相俟って、ヘンデルの作品がオペラ中心からオラトリオ中心と変化する分岐点となっている。

 

B テキストの内容と主題

凡例 *構成 R=レシタティーヴォ A=アリア C=コーラス 斜体=器楽曲

1部「預言と降誕・良き羊飼」

曲番号/構成*

標題

歌詞の要約 )内は曲番号

No.1

シンフォニア

−フランス風序曲−

1楽曲群

No.2・3・4

-A-C

メシア出現の預言

私の民を慰めよ(2)。道を整えよ(3)。全ての人がメシアの出現を見るであろう(4)〔第1の預言〕

2楽曲群

No.5・6・7

-A-C

新しい時代の到来

主は「天と地を揺り動かす」(5)。主の使者の来る日に誰が絶えられるか(6)。彼はレビの子を清める(7)。〔第2の預言〕

3楽曲群

No.8・9

-A&C

良い知らせ

おとめが男の子を産みインマヌエルと名づけられる(8)。良い知らせを伝える者、高い山に登り声を上げよ(9)。[第3の預言]

4楽曲群

No.10・11・12

-A-C

神の栄光のみどり児

闇を神の栄光が照らす(10・11)。一人のみどり児が私達のために生まれた(12)。[第4の預言]

No.13

ピファ

−パストラル(羊飼いの音楽)−

5楽曲群

No.14・15・16・17

-R-R-R&C

メシアの誕生

羊飼いに天使が近づき、メシアが生まれることを告げ、神を賛美する(14-17)。

6単独楽曲

No.18

メシア誕生の喜び

シオンの娘(=エルサレムの民)よ、踊れ、歓呼の声を上げよ。平和が告げられる。

7楽曲群

No.19・20・21

-A-C

良き羊飼い

盲人の目は開き・・・(19)疲れた者は彼のもとで安らぎを得られるだろう(20)。彼の荷は軽いから(21)。

2部「受難と復活・救いの完成」

8単独楽曲

No.22

神の子羊

見よ、世の罪を取り除く神の子羊だ。

9楽曲群

No.23・24・25・26

-C-C-C

苦難と贖罪

彼は見捨てられ深い悲しみを知っていた(23)。私達は彼の傷によって癒された(24・25)。主は彼に私達の全ての罪を負わせた(26)。

10楽曲群

No.27・28

-C

群集の誹謗・嘲笑

皆は彼を嘲笑い、「彼が神のお気に入りなら、神に救ってもらおう」と言う(27・28)。

11楽曲群

No.29・30・31・32・33

-A-R-A-C

十字架上の死、埋葬、復活

彼は望みを失った(29)。こんな悲しみがあるだろうか(30)。あなた方の罪によって命を失った(31)。しかし主は彼を朽ち果てさせなかった(32)。栄光に輝く主が門に入られる来られる(33)。

12楽曲群

No.34・35・36・37・38・39

-C-A-C-A-C

キリスト昇天後の全世界への福音宣教

御使い達全てに彼を崇拝させよ(34・35)。あなたは天に昇り(36)み言葉の伝道者が群れをなす(37)。良き知らせを告げる者の足は麗しい(38)。その声は世界の果てにまで及ぶ(39)。

13楽曲群

No.40・41・42・43・44

-C-R-A-C

終末におけるメシアの勝利

人々は主に逆らい(40・41)主は彼らをあざけり(42)打ち砕く(43)主は限りなく支配されるであろう(44)。

3部「死者の復活と永遠の生命」

14楽曲群

No.45・46

-C

キリストとキリストを信じる者の復活

私を贖う方は生きている。キリストはよみがえり(45)、彼によって全ての人が生かされるであろう(46)。

15楽曲群

No.47・48・49・50・51

-A-R-A-C

終末における人間の復活の神秘

最後のラッパとともに、死者はよみがえり私達は変えられる(47・48)。「死は勝利に飲み込まれた」(49)。死の刺はどこにあるのか(50)。神はキリストを通して我々に勝利を与える(51)。

16楽曲群

No.52・53

-C

屠られた子羊と救いの完成

復活したキリストが神に私達をとりなしてくださる(52)。屠られてその血で人々を救った子羊は賛美を受けるにふさわしい。アーメン(53)。

構成について−各楽曲群が主に合唱で締めくくられている。基本形はR(レシタティーヴォ、合奏伴奏付きのアコンパニャートまたは通奏低音のみの伴奏のセッコ)−A(アリア)−C(合唱)で、第2部・第3部ではかなりヴァリエーションが見られる。

テキストについて−「メサイア」とは直接的には「イエス・キリスト」のことを指しているが、降誕と受難の場面に敢えて旧約聖書のテキストを使っている(バッハの受難曲と対照的)。そのことで、キリスト教における「救世主」の概念を表そうと試みている。

 

C 各楽曲の調性

○囲み数字=楽曲群 上段=曲番号 下段=調性

調性(大文字=長調 小文字=短調 =様々に変化)

*ドイツ音名と日本語音名 対照表
変ホ 変ロ
Es E B H 例)e=ホ短調 E=ホ長調

 

1部 斜体は器楽曲

@

A

B

C

10

11

12

D

D

 

13

D

14

15

16

17

E

18

F

19

20

21

F-B

B

 

第2部

G

22

H

23

24

25

26

I

27

28

J

29

30

31

32

33

Es

F-f

h-E

 

K

34

35

36

37

38

39

L

40

41

42

43

44

Es

C

C

 

第3部

M

45

46

N

47

48

49

50

51

O

52

53

a-C-g-d

D-A

D

B

Es

Es

 

※ ヘンデルの場合、個々の調性の持つアフェクト(情念)とともに、曲の構成の上で、綿密に組み立てられた調性プランを重視。例えば、シャープ系の調性からフラット系の調性に移る時・属調または下属調へと移る時の色彩感の変化に、大きな注意が払われている。

例えば、第1部の第13曲「ピファ」に至るまでの調性をみてみると、次第に調号が減っていくのが分かる。当時の調律法では、調号が少ないほどより純正に近い協和音が得られた。この組み立て方により、みどり児が生まれる(ことを羊飼いが天使より知らされる)という、非常に清らかな場面を準備する効果がある。

全体の要となる調は、D(ニ長調)である。ニ長調は、天上の力・神の栄光を表す調とされ、第17曲「いと高きところに栄光、神にあれ」第44曲「ハレルヤ」第48曲「ラッパが鳴り、死者はよみがえる」第53曲「屠られた子羊は〜アーメン」などに使われている。

また、E(ホ長調)は救済の調とされ、第2曲「慰めよ」第31曲「彼は命の地から追放された」の最後(まさに死から復活の転換点)に使われている。

 

参考文献

HaendelDer Messiah(スコア) ベーレンライター版 TP175(ただし曲番号は下記文献を参照)
ヘンデル アリア選集1 渡部恵一郎・三澤寿喜 編 全音楽譜出版社
渡部恵一郎 著「ヘンデル」音楽之友社
家田足穂 著「メサイア テキストと音楽の研究」音楽之友社
E.シュミート 著 「ヘンデル・メサイア」シンフォニア
J.ビューロー 著 関根敏子 訳「バッハとドイツ音楽の興隆(西洋の音楽と社会C)」音楽之友社
聖書 新改訳 日本聖書刊行会 ほか

 

お疲れ様でした・・・またみてね!

 

その4へ バロック音楽のないしょ話トップへ ホームヘ