その2.音楽の「床工法」?

バロック音楽は、床工法で作られていたんです!!!と、訳の分からないことを言っているとお思いでしょうが、床工法=通奏低音のことなんです。また難しいことを、って?まあ、そうおっしゃらずに、お付き合い下さい!

 

 

バロック音楽には、「通奏低音」が付き物です。この言葉、きっとバロックを聴く方は、一度くらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。バロック音楽を扱う仕事をしていると、1年に50回くらいは説明しなくてはならないハメに陥るので(?)ここに簡単に説明を載せておきます。

 

1.通奏低音って?

通奏低音とは、最も低い音のパートが、

@旋律楽器(メロディーを演奏するのにふさわしい楽器。チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ファゴットなど)と、
A和声楽器(和音を演奏することの出来る楽器。チェンバロ、オルガン、リュートなど)

が組みあわされて演奏されます。

 ところが、楽譜に書いてあるのは、旋律楽器のパートのみで、和声楽器は、旋律楽器と同じ声部を演奏しつつ、その都度ふさわしい和音を即興的に補って演奏していきます。例えば、オルガンやチェンバロの場合、左手で楽譜に書いてある低音のメロディーを弾きつつ、右手(左手も使うこともあります)でドミソ・ドファラなどと和音を弾いていきます。

 

 2.魔法の数字

さて、和音を補う、と言っても、ある瞬間にどんなハーモニーが奏でられているか、即座に判断するのは難しいことです。そこで、楽譜に書いてある旋律楽器のパートに、和声楽器が和音を演奏する時のヒントとなるように、数字がつけられるようになったのです。

数字は、旋律楽器の音符の上か下に、ちいさく書かれています。数字が何を意味するかと言うと、書いてある音符から数えて、何番目の音を弾けばよいか、ということなのです。簡単ですね!

例えば、♪ド♪の音の下に4と6が書いてあったら・・・

ドレミファソラシド
123
5678

 ♪ド♪を1として数えると、4は♪ファ♪、6は♪ラ♪だから、演奏する和音は、ド・ファ・ラ ということになります。一番下が♪ド♪であれば、3つの音が入っていれば順番や音の数は自由なので、例えば、ド・ラ・ド・ファ や、ド・ラ・ファ・ラなどでもOKです。

 楽譜の中には、数字が書いていない音符もたくさん含まれているはずです。そういう音符には、和音はサボっててもいいのかというと・・・そんなことはありません!何も書いていない=3と5を弾け!っていうことなのです。和声楽器の人は、気を抜くヒマがないんです。(かなりホンネ入ってます・・・^^;)

例えば、♪ソ♪の音に数字がついていなかったら・・・

ソラシドレミファソ
123456

 1=♪ソ♪、3=♪シ♪、5=♪レ♪ 答えは、ソ・シ・レの和音でした!

 他にも、6だけしか書いてなくても、3と6、2しか書いてなくても2と4と6、など、多少の決まりごとを覚えれば、どんなハーモニーを付けるかすぐ分かります。ということは、その曲が小人数で弾くアンサンブルだろうが、大編成のオーケストラだろうが(正確に言うと、声部数が多くても少なくても)、通奏低音が読めれば、音楽すべてが分かる、ということです。作曲家や指揮者の立場になれるってことですね。

 もともと通奏低音は、バロック時代当時は、作曲した本人が弾いていたのです。バロック時代に音楽の担い手となった宮廷などでは、作曲家が音楽に求めただけの演奏家が雇われていなかった場合や、演奏家の技量が充分ではない場合、作曲家自身が指揮をしながら弾いた通奏低音が、曲のハーモニーを補ったのです。

 

3.どうして生まれたの?

さて、低音部が充実し、かつハーモニーが重要な役割を演じた通奏低音という技法がどうして生まれたのでしょうか?

 バロック時代の前、ルネサンス時代には、メロディーばかりが重なり合った「ポリフォニー」という手法で音楽がつくられていました。

 「ポリフォニー」は、

音の縦のつながり、つまり、同時に響く音がどういう関係になっているか、ということよりも、

音の横のつながり、つまり、メロディー同志の重なり方が大事だったのです。

 バロック時代になって、現在の私達が耳にする音楽(クラシックに限らずポップス・演歌!も)、すなわちメロディーをハーモニーが支える、という形の音楽が準備されつつあり、その中で、低音と和音でしっかり曲をまとめる「通奏低音様式」が発達しました。下からしっかり支えているから、ほら、音楽の「床工法」だったでしょう?

 

その3へ バロック音楽のないしょ話 トップへ ホームヘ